現在、東ティモールの首都ディリでは、韓国映画の撮影が行われています。東京のような大きな街では映画の撮影はそう珍しいことではないかもしれませんが、ここ東ティモールは映画館もなく、俳優もいないという国で、映画の撮影は本当に珍しいことです。これまでも、東ティモールを題材にした(特に独立闘争について)映画はいくつかあると思いますが、東ティモールで東ティモール人の俳優で撮影された映画というのは今回が初めてだそうです。しかも、今回の映画は、独立闘争や人権侵害を扱ったドキュメンタリー系ではなく、実話を基に、サッカーをメインテーマにした映画です。東ティモールの暗いイメージを吹き飛ばし、明るい未来に向けて頑張っている子どもたちを描くということで、完成が非常に楽しみです。
11月1日にクランクインしたこの映画は、「A Barefoot Dream(裸足の夢)」というタイトルで、キム・テギュン監督(「火山高」、「オオカミの誘惑」、2010年1月9日公開の日韓合作「彼岸島」)、パク・ヒスンさん主演です。簡単にあらすじを紹介すると、この映画は、たくさんの犠牲者を出した独立闘争を経て2002年に独立し、未だ貧困に苦しんでいる東ティモールの子どもたちが、サッカーを始めてから1年で広島での国際舞台で優勝という快挙を成し遂げるという希望に満ちたストーリーです。これは実話に基づいたストーリーであり、東ティモールの子どもサッカーチームは、実際に2004年、2005年と広島のリベリーノカップという国際サッカー大会に出場し、2年連続で優勝しました。
そして、この快挙の背景には、韓国人の元サッカー選手キム・シンファン監督の熱心な指導があり、東ティモールの子どもたちとの友情がありました。キム・シンファン監督は実在の人物であり、韓国でプロとしての活動を引退した後、事業に相次いで失敗し、2002年、一旗あげようと独立したばかりの東ティモールにやってきました。しかし、実際に東ティモールに来てみると、人々は貧困に苦しんでおり、一攫千金という当ては外れてしまったのです。ところが、キム・シンファン監督は、東ティモールの子どもたちがサッカーで遊ぶ様子を偶然目にし、もっと本格的にサッカーを教えたいと思うようになり、無報酬で子どもたちにサッカーを教えるのです。貧困による家族の問題や内戦による影響等、様々な困難を乗り越えて、キム監督と子どもたちが一緒になって夢を追いかけるという感動的な実話に基づいたストーリーです。このサッカー監督のキム監督は現在でも東ティモールの子どもたちにサッカーを教えており、キム監督が指導している子どもたちは今でも国際大会に参加して活躍しています。
東ティモールで映画の撮影というだけでもワクワクする話ですが、実は他にも嬉しいことがあります。この映画は、韓国の映画ですが、撮影チームには藤本信介さん(藤本さんのインタビュー)という日本人スタッフが1人参加しており、大勢の韓国人スタッフの中で活躍されています。さらに、この映画のクライマックスは広島での国際サッカー大会で東ティモールの子どもたちが優勝するというシーンなので、韓国映画ではありますが、日本とも関わりのあるストーリーです。そして、終わりなく続いた戦争と内戦を経験してきた東ティモールの子どもたちが、世界のどの都市よりも反戦と平和を訴える広島のサッカー大会での優勝を通して、東ティモールの人たち、そして世界中に希望を与えたことは本当にすばらしいことです。
この映画に参加している日本人スタッフの藤本さんや今後予定されている広島での撮影等のおかげで、この映画は東ティモールという第3国で日本と韓国との関係もさらに深めてくれました。当地では韓国大使館の方とは日頃から親しくしていましたが、映画のスタッフが来てからはより頻繁に韓国人と日本人が集まる機会ができ、韓国がより身近になった気がします。東ティモールで日韓交流というとなんだか不思議な感じですが、これも何かの縁かもしれません。この映画のキム・テギュン監督も「彼岸島」という日韓共同作品にも参加されており、非常に親日的ですし、映画「裸足の夢」にも主人公の韓国人サッカー監督の友人として東ティモールに住む日本人が登場します。まだ「裸足の夢」の日本での公開は決まっていないそうですが、ぜひこの映画が日本でも公開され、多くの日本の皆さんに東ティモールのことを知ってもらえるといいなと願っています。
私はこれまで映画の撮影を見たことはなかったのですが、今回は身近なところで撮影が行われているので、何度か現場を見学させてもらいました。当地は毎日気温が30度を越え、昼間の日差しが強く、外にいるのは本当に体力を消耗するのですが、撮影スタッフの皆さんは、連日炎天下で一生懸命撮影に取り組んでおられます。そして、今回の映画の良いところは、東ティモールのサッカーチームの子どもたちが実際に映画に参加し、演技しているのです。東ティモール人が俳優として参加しているという点で、この映画は初の試みだと思います。演技はもちろん初体験で、おそらく映画がどのようなものであるかもよく知らない子どもたちに撮影に協力してもらうというのは本当に大変なことだと思いますが、撮影現場には子どもたちの笑顔があふれています。完成した映画に自分たちが映っているのを見たら、子どもたちはどんなに驚くことでしょう。キム・テギュン監督は、完成した映画をぜひ東ティモールでも上映し、今回協力してくれた多くの子どもたち、その家族や友達にも見てもらいたいと話しています。私もこれがぜひ実現されることを願っています。
東ティモールの子どもたちにサッカーを教えるという夢を追いかけたキム・シンファン監督、そして大好きなサッカーをもっと上手になりたいという夢を追いかけた東ティモールの子どもたち、さらにこの感動的なストーリーを多くの人に知ってもらいたいと東ティモールでの初の映画撮影にチャレンジしたキム・テギュン監督と多くの人の夢が幾重にも重なってこの素晴らしいプロジェクトが実現できたのではないかと思います。そして、東ティモールのことを日本の皆さん、世界の皆さんにもっと知ってもらいたいという私たち大使館スタッフの夢も重なって、多くの人々がこの映画の撮影を見守っています。こうしていくつもの希望や夢を生み出している、映画「裸足の夢」の撮影は今日も続いています。どんな映画になるのか完成が本当に楽しみです。
(小出)
制作発表の様子
撮影現場の様子
撮影現場で遊ぶ子供たち
大勢のエキストラを使っての撮影
真剣にモニターを見つめるキム監督 映画に出演している子供たち
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