館員の見た東ティモール

 

【藤本信介さんインタビュー】

 

Q:東ティモールの印象はどうですか?

A:東ティモールは「笑顔の国」だと思います。知らない人でも目が合うと笑いかけて手を振ってくれるので、なんてフレンドリーな国だろうと思いました。過去の紛争の話を聞いていたので、当地に来たばかりのときは緊張していましたが、東ティモールの人たちの笑顔を見て、楽しい撮影になりそうだと感じました。実際に映画の撮影をしていても、エキストラや見物人も笑顔で撮影を見守っています。

 

Q:撮影を開始されてから1ヶ月が経ちましたが、これまでの感想はいかがですか?

A:まずなんと言っても、暑さが一番大変です。どれだけ暑いかと言うと、現地の人たちも炎天下で一日中サッカー等の動くシーンを撮影することが多いので、暑い暑いと言って撮影に苦労しています。ティモールの人たちはのんびりとしていて、普段は昼間の暑い時間はあまり活動しないんだと思いますが、映画の撮影は朝から晩まで休みなく動かなくてはならないので、彼らにとっても初めての体験で大変だと思います。また、東ティモールでは映画の撮影も初めてのことなので、いろいろと予想もしないようなハプニングが起こったりして大変です。ただ、その一方で、親切にしてくれる現地の人もたくさんいて、助かっています。先日は、ある家の前で撮影スタッフとお昼ご飯(お弁当)を食べていたら、その家に住んでいる人が嫌な顔をするどころか椅子を持ってきてくれました。このような嬉しいエピソードがたくさんあります。

 

Q:撮影には多くの東ティモールの子どもたちが参加していますが、子どもたちとの関係はどうですか?

A:子どもたちは最高です!演技は初めての経験ですが、物覚えがよく、少し指導しただけですばらしい演技をしてくれます。また、台詞もきちんと覚えていて、驚くべき才能だと思います。子どもたちは映画撮影という初めての体験を楽しんでいるように見えます。お互いの単語程度の英語と、覚えたての片言のテトゥン語(東ティモールの現地語)で会話をしています。正直、お互いが伝えることのできる言語的範囲はかなり狭いですが、心で通じ合っているという感じが強く、いつも冗談を言い合いながら仲良くやっています。年齢を超えた東ティモール人の友達がたくさんできたので、とても嬉しいです。10年後、この子供たちがどこで何をしているのか、想像するだけでもわくわくしてしまいます。

 

Q:東ティモールの子どもたちは映画というものを知っていますか?

A:おそらく映画がどのようなものかよくわかっていないと思います。スタッフが簡単なストーリーを説明して、撮影を進めていますが、完成したものを見たら衝撃を受けるでしょう。演技をしている子どもたちは10歳~12歳で、みんな楽しんで撮影に参加しています。最近、浜辺での撮影シーンがあり、引き潮のときに砂浜を裸足で走るのは石や貝殻で痛いのですが、子どもたちはその痛みを我慢してでもきちんと演技しようとし、そのプロ意識には本当に心を打たれました。今後広島での撮影もありますし、東ティモールで育った子どもたちが自分たち外国人と一緒に時間を過ごし、飛行機で外国(広島)に行くという経験をすることによって、この映画が子どもたちにとって何らかの転機になったらいいなと思います。映画の撮影はいろいろと大変ですが、子どもたちのおかげで自分たちも笑顔を絶やさずに頑張れています。

 

Q:映画の基になった広島でのサッカー大会で優勝した子どもたちは今どうしていますか?

A:当時優勝した子どもたちは、高校生になり、今もキム・シンファン監督の下でサッカーをしています。映画は2003~2004年当時の話なので、同じキム・シンファン監督のサッカーチームの中でもより年齢の低い子どもたちがメインキャラクターになっています。高校生の広島で優勝したメンバーもこの映画にサッカーの相手チーム役で出演したりしています。最近では、中国で行われたサッカーの国際大会で、この高校生のチームが2位になったそうです。

 

Q:キム・シンファン監督(実在のサッカーコーチ)の印象はどうですか?

A:困難に見えることでもやればできるということを証明した人だと思います。キム監督は、独立したばかりの何もないところに来て、一人ですごいことを成し遂げました。さらに、その夢は終わっておらず、現在も過程にあり、将来の東ティモール代表サッカー選手を育てています。ある程度の年齢になってから、全てを失ったときに、誰もやっていないことを始めたというキム・シンファン監督の姿は見ていて力になります。自分にとっては日本以外の場所で挑戦し続けるという意味で大先輩にあたるので、会って話しをするたびに、たくさんの刺激をもらっています。

 

Q:キム・テギュン監督(映画監督)の印象はどうですか?

A:子どもたちを心から愛していて、今回の映画は、東ティモールを助けたい、みんなに東ティモールのことを知ってもらいたいという気持ちも強いと思います。最初は、キム・シンファン監督のことを知って東ティモールに興味を持ったそうですが、今はここの子どもたちを本当に大事に思っています。いろいろとハプニングもありましたが、予定通り撮影は進んでおり、力のある監督だと思います。

 

Q:韓国人の中で唯一日本人スタッフとして活躍するのは大変ですか?

A:映画は文化であり、韓国と日本では文化やいろいろなシステムが違うので、困難もあります。でも、自分は映画の仕事を韓国でスタートさせ、まだ日本での映画の経験が少ないので、韓国のやり方を学ぶ際にその点は良かったかもしれません。他に韓国の映画界で頑張っている外国人はあまりいないと思うので、頑張っていきたいと思います。韓国の映画チームのスタッフとして、日本での撮影に行けるときには本当に嬉しいですし、今回の映画も広島での撮影等、日本との関わりがあることを嬉しく思っています。大好きになった東ティモールと日本がつながる映画に関われていることを本当に喜んでいます。多くの日本の皆さんにもこの映画を見てほしいですし、映画がヒットしてほしいというより、この映画をきっかけに多くの人々が東ティモールに関心を持ってもらえればと思います。

 

Q:東ティモールのイメージは変わりましたか?

A:こちらに来る前は、何もない新しい国というイメージで、マイナスではなかったですが、何も期待していませんでした。しばらく東ティモールで生活し、現地の人と交流してみると、生きるパワーにあふれていることを感じます。日本や韓国は物にあふれていますが、悩みが多いですよね。その点、東ティモールの人々は、生活は大変ですが、いつもにこにこしていて、生きるたくましさを感じます。日本では過去になりつつある戦争やそれに伴う生きるか死ぬかといった悲しみや極限状態が、東ティモールの人々にとってはまだ現在につながっている最近の体験であり、いろいろと考えさせられることが多いです。

 

Q:この映画で伝えたいことは何ですか?

A:まずは、東ティモールの存在を多くの人に知ってもらいたいです。この国は新しい国で、新しい悲しみを経験していますが、未来を創っていく子どもたちがたくさんいます。みんな一生懸命生きています。他の国から見たらかわいそうに見えるかもしれませんが、実際にはそんなことはありません。この映画のストーリーのように、やってみれば何かの結果につながるということが絶対あると思います。挑戦することの大切さを皆さんに伝えたいです。挑戦して、例え失敗しても、その過程で得られる幸せなんかもあると思いますし、そういうメッセージを映画で伝えられたらいいなと思っています。

 

 

 

藤本さんと
映画に出演するサッカーチームの子供たち

キム・テギュン監督と藤本さん

 

 

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