夏の終わりに
つい先日、昨年の12月の終わりまで、私にとっては夏が続いたままでした。半袖、日焼け、焼ける地面、青い空には入道雲、青と瑪瑙と群青に、きりりと染め分けられた海・・・
昨年の9月末から、わが国は3名の国際平和協力隊員を東ティモールに派遣しています。私はそのうちの1名として、マリアナにいる関根3佐、バウカウにいる建部1尉をサポートするため、同じ年の12月末まで首都ディリに派遣されていました(元々は防衛省の、制服を着ていない方の職員です。)。
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今、真夏から一足飛びに真冬に飛び込んで、いつもならば何とも感じなかったはずの日本の冬に少しばかり戸惑っています。
始めに驚いたのは言わずもがな、寒さです。これまでもこれからも師走の来ない東ティモールでは、地元の人はもちろん国連やNGOの外国人も、多くは半袖を着ています。私はというと、マラリア予防(蚊に刺されないことは、単純ですが効果的な予防法です。)のためにワイシャツは全て長袖を用意していったのですが、結局は腕まくりをして過ごす毎日でした。帰って初日の出勤は、寒い寒いと思いながらそれでもついつい腕まくりをしようとし、そのままネクタイをせずに出かけようとしてしまいました。
抜けるように青い空、湧き上がる白い雲、かすかに揺れる椰子の木々
まさに「ど」南国
次に驚いたのが日差しの淡さです。飛行機は朝に(驚くなかれ、実は両国に時差はありません。日本は東ティモールのちょうど北に位置するのです。)着いたのですが、何だかもう夕方のように感じられて、少なからず戸惑いました。ディリはというと、「日刺し」と書いてもおかしくないほど太陽がぎらぎらと肌も目も刺してきて、元々が地黒の私は日焼けを通りこして日焦げになりました。そうかと思うと一転俄かに掻き曇り、目の前が煙っているかと見えるほどの雨が降り注ぎます。一時これでもかと降って、後はからりとまた晴れる、分かりやすくて大層気持ちのよい空でした。
「日刺し」
建設中の建物はおそらくは教会。東ティモールは敬虔なカソリック国です
水の冷たさには手を洗う度に心臓が止まりそうになります。ディリではむしろ、水道をひねると水道管越しに熱せられたぬるま湯が出てくるくらいで、昨年の12月(!)に友人と海辺に遊びに行った時も、浅瀬のどこかに給湯器が取り付けてあるんじゃないかと冗談を言い合うほどでした。これで魚は住めるのかしらんと思いきや、1m程も潜れば急にお湯から水に変わる(というのも変でしょうか?)ため、浜辺から一泳ぎ離れただけでも原色の小魚がたくさんいました。・・・ついでにワニもいるそうです。
温いどころか目の覚めるような美しさ
日本でも昨年は奄美大島で大変な被害が出ましたが、豪雨による社会インフラの寸断は東ティモールではどうも毎年の事のようです。独立して10年に満たない東ティモールは、現在も復興のただ中にあります。道路一つとっても、首都ディリではまだまだ平坦とは言えず、陥没、冠水、斜面の崩落など、そこかしこで見かけます。
ディリ近傍、斜面が崩落して土砂が流れ込んだ道路
復興中ゆえにこういう箇所もままあります。
そして何より国連の存在です。東ティモールでは独立後も断続的に、自国だけでは治安の維持を始めとした行政機能を発揮できない状況に陥りました。他方で、現地の報道によれば、2012年末での国連ミッション(UNMIT。アンミットなどと呼ばれます。関根3佐、建部1尉が参加しているのがこのミッションです。)の撤退を目指して、東ティモール政府とUNMITが議論を開始しているという、本当の意味での自主独立に向けた動きも着実に進んでいます。
左端、「UN(United Nations)」と大書してある国連車両
市内の随所で見かけます
日本に帰ってまだ一月も経っていませんが、懐かしいかと言えば懐かしく、戻りたいかと言えば戻りたく、住みたいかと言えば少し迷いつつも、好きかと言えば大層好きな東ティモール。
遠い世界のように感じられますか?私にしたって、つい数ヶ月前まで5千km以上離れた別世界でした。でも私の場合は、あるきっかけで土曜日に市内を折り畳み自転車でぐるぐる回るようになってから、いつまでも師走の来ない椰子の日陰で、のんびりとおしゃべりしている人たちがとっても好きになりました。汗だくになってちっちゃな自転車を漕ぐおかしな外人に、にっこり笑いかけてくれたり、そっと手を振ってくれたりする人たちを目の前にして、なんだか南国らしくていいなぁ、と思ったのです。
でもそれって、別にただ南国だからじゃなかったかもと思うのです。日本でも、田舎に行ったらそんな風、実際に私は行き交わす気さくな人たちに、田舎の優しいばぁちゃんを少しばっかり重ね合わせていたかもしれません。遠く離れてたって冬が夏だって夏が夏だって、お互い同じ人の子なんだなと、いたく感傷的ではあると考えつつも、日本に帰って一層のこと、そう思ったりしています。
(輪倉)
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