私の見た東ティモール

 

 

~素敵な東ティモールの漁師さんたち~

 

 東ティモールに赴任して2年。今日は少し心がウルルンとするような出来事がありました。東ティモールの第2の都市バウカウの幹線道路から離れたワイクア村。ここで6ヶ月にわたる漁業研修が終了したことを祝うセレモニーが開催されたのです。
 研修は東ティモールの東端ラウテム県イラアラ村の漁民が隣のバウカウ県ワイクア村でロンポン漁法という技術を習得するために実施されました。ロンポン漁法はインドネシア時代にワイクア村に伝わった技術で、ロンポンと呼ばれる竹で作った筏(いかだ)の下に魚を集め、一気に網で捕獲します。筏の作成から網を扱うタイミングまで10人で1グループとなり一致団結して取り組まないと失敗してしまう。他の漁法に比べ高い漁獲を期待できますが、その分技術や資金が必要で、協調性も求められます。そのため、東ティモールの他の地域ではほとんど導入されていません。
 この研修が始まったきっかけは、イラアラ村における漁獲高の伸び悩みでした。JICAの支援によって2007年8月より日本のNGO「育英海外ボランティア」が草の根技術協力事業「ラウテム県北部海岸漁業活動支援プロジェクト」を実施しています。このプロジェクトで、イラアラ村の漁民の生活向上のために、漁船の製造・メンテナンス、漁業の技術、捕獲した魚の加工等を指導しています。漁船のメンテナンスや魚の加工技術の指導は順調でしたが、なかなか漁獲高があがらず、現地調整員の辻村さんは悩んでいました。そんな時、辻村さんは隣の県のワイクア村の漁民達と出会いました。悩みを打ち明けると、ワイクア村の漁民リーダーは「遠い日本から東ティモールに来て漁民たちを支援してくれているのに、どうして同じ東ティモールの漁民同士が助け合うことができないのだろうか。イラアラの漁民を私たちの村にぜひ連れてきてください。私たちの技術を教えてあげましょう」と応えてくれました。この言葉に支えられて、イラアラ漁民の研修が始まったのです。
 ワイクア村での研修には当初7名のイラアラ漁民が参加しました。難しいロンポン漁法を習得させるための指導は、泊り込みで厳しいものでした。ワイクア村のリーダーは「たとえ途中で脱落してしまう漁民がいても、厳しい指導が必要です。少数でもロンポン漁法を完璧にマスターした人がイラアラ村に戻って、この技術を皆に伝えることが重要なのです」と彼の考えを語ってくれました。この徹底的な指導に、最終的に残ったのは3名だけでしたが、彼らはロンポン漁法を習得し、漁獲高と収益もあげられるようになったのです。
 この3名のイラアラ漁民の研修終了を祝うセレモニー。6ヶ月間の研修を成し遂げた彼らは、ロンポン漁法を教えてくれたワイクア村の漁民達を「兄」と呼んで慕い、これからは自分達で頑張っていくぞという決意と希望に満ち溢れていました。ワイクア村の漁民は3名のイラアラ漁民を「弟」と呼び、何か困ったことや問題に直面したら、いつでも自分たちに相談するようにと声をかけました。そして、これからはイラアラ村でロンポン漁法を成功させるようにと願って、「網」「櫂」「漁業日誌(帳簿)」をそれぞれにプレゼントしたのです。
 素敵なストーリーだと思いませんか?私も東ティモールのために働いている一員ですが、なかなか思うようにならなくて悶々としてしまうことも多い毎日です。そんな折に、このセミナーに出席しました。東ティモール人同士が協力して成功している様子を目の当たりにして、なんだか心がジーンと温かくなった一日でした。

                                                                                              

内川(JICA東ティモール事務所)



ロンポン漁法で魚を捕獲している様子

Photo by Shoko Kikuchi, IKUEI

ロンポン漁業にこれから行く様子。左奥がロンポンという筏。

Photo by Shoko Kikuchi, IKUEI

網のメンテナンスを指導

Photo by Shoko Kikuchi, IKUEI

ロンポン漁法に欠かせないロープの手入れをしているところ     Photo by Shoko Kikuchi, IKUEI

ロンポン漁法で捕獲した魚を手に喜ぶ漁民たち

 Photo by Shoko Kikuchi, IKUEI

セレモニーで辻村さんの説明を聞く大使夫妻とワイクア村漁民リーダー
ワイクア村漁民から網をプレゼントされる研修生(イラアラ漁民) セレモニーで述べる研修生(イラアラ漁民)
 

セレモニーの集合写真

 


 

 

 

(c) Embassy of Japan in Timor-Leste  Avenida de Portugal, Pantai Kelapa, Dili, Timor-Leste (P.O. Box 175) Tel: +670-3323131 Fax: +670-3323130