館員の見た東ティモール

 

「脱力感と粘り強さが同居する東ティモール」

 

 東ティモールでの任期を満了する日が迫ってきた。
 東ティモールでは約3年に渡って生活したが、飽きるどころか、ますますその面白さ(=不可解さ?)に魅入られている。

 

 どこの開発途上国でも似たようなものかもしれないが、ここの国にはここの国独特のペースというものがある。これを乱して物事を進めようとしても、あちらこちらで綻びが生じるだけだ。東ティモール政府のカウンター・パートの方々と一緒に仕事をする上で、「こんなペースで進めていて間に合うのか?」と不安になっても、バタバタとみんなでなんとかしてしまうのが東ティモール流だ。「一人であせってもしょうがない。まあ、なんとかなるさ。」というのが、私がまずここで覚えなければならなかったことの一つである。そして、何よりも、どれだけ仕事でフラストレーションをためさせられても、なぜかどうしても本気で怒る気にさせられない、東ティモール政府のカウンター・パートの人々の不思議な魅力とこの脱力感。東ティモールの歩調にあわせて一緒に歩いていて、何が悪いのだ??と、開き直るまでになった自分がいる。

 

 ここを去って、恋しくなりそうなものは容易に想像がつく。日々その色合いを変える海と、向かいに見えるアタウロ島。カラっとした乾季の底抜けに青い空に、これでもかと雨を降らせる雨季の真っ黒な空。どしゃぶりの雨の中を、裸足で走ってはしゃぎまわる子どもたち。乾いた赤茶けた土を見せている乾季の埃っぽい山々と、雨季の目の覚めるような鮮やかな緑の山々。丘の上にぼんやり見えるキリスト像。道ですれ違うときに目が合うとにっこり笑って「ぼた~るで~(こんにちは~)」とのんびりした声で声をかけてくれる地元の人たち。毎日通った大使館へのビーチ・ロードと、大使館の目の前の、絵葉書から抜け出してきたようなヤシの木と砂浜。出勤時の、潮風と静かな海と大きな明るい空。帰路につくときに、真っ黒な海をまっすぐ明るく照らす月の光。どのイメージも、この3年間で私の体の芯までしみ込んだような気がする。だから、メルパチ航空でインドネシア・バリ島から、ディリのニコラウ・ロバト空港に着いて、タラップに出た瞬間、ここの熱い空気を肌に感じると、「ああ、帰ってきた~」と、ホッとしたのである。そして、迎えの友人の車で、目抜き通り(一応)のコモロ・ロードを、埃をかぶりながらガタゴト行くと、帰ってきたうれしさで自然と笑みが出たのである。ここを去って他の地で生活することは、今でもまだ、実感が湧かず、想像がつかない。

 

大使館の前のヤシの木と海と空

夕暮れ時の大使館前

 

 次に東ティモールに来るのがいつになるのかは分からないが、もしもすぐに戻ってこられなくても、少なくとも5年後、10年後の東ティモールを絶対に見に来たいと思う。東ティモールは、2002年に独立してから、2004年、2006年、2008年と、2年ごとに一時的な治安の悪化を経験してきた。今年は2010年。今年を平和に乗り切って、2012年に予定されている、独立から2回目の国政選挙を乗り越えれば、きっともっと平和な社会が待っているのではないだろうか。もう絶対に、ここの人たちが怖い悲しい思いをするようなことは起きてほしくないと心から強く願う。

 

 治安が安定しても、まだこの国には、貧困や、不十分な衛生環境による病気、留まることを知らない人口増、雨が降ればいたるところにボコボコ穴があく道路に、清潔な水や電気といった基礎インフラが無い村々など、様々な問題がある。人口の半分が、一日88セント以下で生活している国である。この国では、生死が本当に身近にある。東ティモール人の友人は、それこそしょっちゅうお葬式に行っているし、いつも、私が何て声をかけていいか分からないでいると、そのたびに少し微笑んで肩をすくめ「ここは東ティモールだから。」と言われる。そうかと思えば、住まいのアパートでも、職場でもカウンター・パートのオフィスでも、産休を取る女性が後を絶たず、しばらくしたら小さな命と一緒に現れ、明るく強い笑顔を見せてくれる。

 

 この小さな国が抱えている問題は、みんながよってたかってがんばっても、なかなか簡単に解決できそうにない。やるべきことがあまりにも多すぎて、ともすれば、途方にくれそうにもなる。でも、「一生懸命がんばっても、ちっとも結果が出ないじゃない。」と言う私に、「We just do our best. The rest is in God’s hands.(ただ全力を尽くすだけ。あとは神様の手の中だから。)」と、ゆるやかに微笑んで答える東ティモールの友人たちに、独立を勝ち取ったこの国の底力というか、あせらないけれども絶対にあきらめもしない粘り強さを感じるのである。あきらめた瞬間に物事は終わるが、あきらめさえしなければ、何事もいつかは叶う。だから、時間がかかっても、この国は絶対に良くなっていくと思う。そして、今この国が抱えている様々な問題が少しでも解決され、是非、より多くの人が気軽に観光でこの国を訪れ、この国に触れることが出来るようになっていって欲しいと思う。

 

元気に昼食の準備をする少女(エルメラ県)

 

山の中の水田(アイレウ県)

 

静かに浮かぶ漁船とビーチ(バウカウ県)

(清水)

 

 

 

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