【政務の醍醐味】
政務の仕事は大使館業務の中でも花形と言われた時代も過去にあったようですが、実際には極めて地味で目立たない仕事です。本コラムの冒頭でも述べたとおり、実際何をしているのですかと聞かれ、即答できないこともしばしばあります。今回は政務を担当していてどんなところに醍醐味を感じるかをお話しします。些か抽象的な表現になる部分がありますがご容赦ください。
大使というのは本国から全権を委任され、特定の国に駐在して外交活動を行う、言わば国の代表です。大使はその国の国家元首をはじめとする要人と自由に会うことが出来ます。東ティモールにおいても例外ではありません。政務は大使が大統領や首相等要人と会見する際に同行し、直接自分の耳で大使と要人の会話を聴きながら、要人の人となりを具に観察することができます。政務の駆け出しの頃は、要人を前にして緊張のあまり、話の内容を留めることが出来なかったという失敗もしました。
職業柄これまで様々な人達を見てきましたが、私の見た東ティモールの要人達は一人一人が極めて個性的で、かつ人間味溢れる人達です。政権が交代してそれぞれの社会的立場が変わったとしても誰もが立場が異なる人に対する謙虚さを決して忘れないという点に私は感心し、東ティモールの人達を身近に感じました。
ある要人は東ティモール人のメンタリティについて次のように指摘しています。「外国人の皆さんには理解しにくいかもしれないが、東ティモール人のメンタリティにはユニークな部分がある。例えば、武力衝突による戦闘で敵味方の関係にあった者でも時間が立てばやがて相手を許し、受け入れられるようになる。家族の一員であっても考え方や政治哲学が違えば当然対立するが、心底相手を憎み続けることは極めて希である。テトゥン語には、"funu malu"(本当の敵という意味)という言葉があるが、たとえ相手がどんなに悪者であっても相手のことを"funu malu"と認識し続けることは難しい。それは東ティモール人のメンタリティの中に同じ人間または同じ人種として相手の共通点があることを受け入れているからである。傍目ではいがみ合っているように見えても内心は相互に尊重していることが多い。」東ティモールの人達がこうしたメンタリティを持っている。これが私が東ティモールの未来は決して暗くないと実感している所以です。
要人以外にも様々な分野の人と自由自在に会い、特定のテーマについて意見交換することができるのも政務の魅力と言えるでしょう。時には、ある事案の事実関係を確認するために、ジグゾーパズルを解くような地味な作業もありますが、ある時は大使と共に、またある時は他の館員と共に、更にある時は単独で人と会い、人と会ったその一瞬一瞬に全神経を集中して胸躍らせながら会話を聴くスリルを味わうことができるのが、政務の醍醐味です。私は、政務が担当する事象は当に様々な人間模様が織りなすものであり、人間の内面的要素が色濃く反映されるものであると認識しています。展開を予断することができないという点にも尽きない魅力を感じています。
意見交換を通じた知識を基に、自分の頭に描いた東ティモールの政務天気図をアップデートしていくと、晴天のところもあれば、曇り空や大雨が降っているところもあります。このように政務の仕事を天気図に置き換えると東ティモールの政治情勢が立体的にまるで生き物のように見えてきます。こうした醍醐味を一度味わってしまうと、誰でも政務にはまること請け合いです。(続く)
(大橋)
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