館員の見た東ティモール

 

「ディリ空港の滑走路」

 

 

 私は、この度、4年5ヵ月の在東ティモール大使館勤務を終え、11月に帰国しました。この機会に私の赴任時の印象、その後の変化をご紹介させて頂きます。

 

 私の東ティモール行きは、2006年4月に東ティモールで騒擾事件が発生したため、当初予定より1ヵ月遅れとなりました。
 私が初めて東ティモールの地を踏んだのは、事件がある程度沈静化していた6月でした。当時のニコラゥ・ロバト空港(=ディリ空港)に離発着していた飛行機は、週4便インドネシアのバリ島との間を往復する便しかなく、私も前任地からバリ島の空港で乗り継いで、お昼時間を少し過ぎたころに東ティモールに到着しました。
東ティモールでの最初の印象は、飛行機がディリ空港滑走路に着陸し、滑走路を走る飛行機の振動でした。機体がガタガタガタガタと細かく揺れ、頭のてっぺんからつま先までからだ全体に響き渡りました。飛行機のスピードが落ちるにつれて、徐々に振動も少なくなり、そして飛行機は滑走路脇の駐機場に停止しました。

 

 飛行機を降りて空港の建物へ向かいました。
入国審査、預け荷物の引取り、そして荷物検査、建物内はどこも風通しが悪くとても暑くてたまりませんでした。あたりを見渡しても冷房設備のようなものは見当たりませんでした。空港内は暑さとの闘いで暑さに対応し切れていない自分の体には長い移動の疲れも加わって大きなダメージでした。
 空港を出ればこの蒸し暑さからも解放されると思い、ほっとしたのもつかの間、空港の外は騒擾事件の爪跡が生々しく残っていました。空港建物の正面側はあちらこちらでガラスが割られていて、ベニヤ板を張って窓を塞いでいるところもありました。空港駐車場の先に目を向けると、無数に立ち並んでいる難民テントが見えました。後日、それらのテント生活をしている人たちは、騒擾事件のときに家を焼かれたり、襲われたりした家族や地方へ逃れることができずに行き場所を失った人たちであることを聞きました。
 まだ前任地にいたときに、東ティモールへの赴任が近づいたある日、東ティモール大使館から「飛行機が飛んでいないので出発を延ばすように」との連絡があり、不安な気持ちに陥ったときのことを思い出しました。空港の建物や周辺の状況を目のあたりにすると、飛行機を飛ばしたくても飛ばすことができなかったのだなと思いました。

 

 あれから4年5ヵ月、私は東ティモールでの仕事を終え、帰国することになりました。

 

 東ティモール最後の日、住み慣れた家をあとにして、初めて東ティモールに来たときの風景を思い浮かべながら、ディリ空港へ向かいました。道を歩いている人の数や道路を走っている車やバイクなど、数年前と比較すると明らかに増加し活気もでてきていることが分かります。道路沿いには新しいお店やレストラン、市場なども増えています。ただし、東ティモールの人たちの生活は、さほど裕福になったとは思えません。治安情勢は、2008年2月に大統領・首相の襲撃事件が発生し、その後、夜間外出禁止令が出され治安悪化が懸念された時期がありましたが、今は治安も飛躍的に安定し、小さな子供から年配者まで安心して外出ができる環境に変わってきています。

 

 長年住み慣れた家を出発してから約20分、4年5ヵ月前には外国治安部隊が道路を規制し、通行する車を一台一台止めて検問を行っていた鉄橋を通り過ぎ、その先のロータリーを4分の3周して右方向へ進めば、ディリ空港は目の前にあります。
 空港周辺の景色もすっかり様変わりしました。
 空港手前にある広い空き地は、以前多くの避難民が生活していた場所でしたが、今はそのような面影は全くありません。
 ディリ空港に到着しました。空港の建物は、一般利用者の出発用と到着用、それにVIP用の3つに分かれています。私は向かって建物左側の搭乗者用入り口から入って、搭乗手続き、出国審査、そしてセキュリティーチェックを受けて待合室へと向かいました。4年5ヵ月前の着任時とは違い、今は建物内は冷房が効いていて、建物出入り口から駐機場近くまでの乗降客が利用する通路には屋根が設置され、雨の日や日差しの強い時に空港を利用する人にはたいへん助かります。

 

 飛行機は定刻に動き出し、スピードを上げて滑走路を走ると、機体がガタガタガタガタと細かく揺れ、からだ全体に響き渡りました。ディリ空港の滑走路は初めてこの国に降り立ったときと全く変わっていませんでした。(終わり)

 

 


私の「東ティモール最後の写真」です。
(タラップ最上段から見たディリ空港)

 

(前館員 諸橋)

 

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