館員の見た東ティモール

 

「東ティモールの子供たち」

 

  5月末に東ティモールに赴任してからもうすぐ4ヶ月が経とうとしています。私にとってはそれまでは未知の国であった東ティモールでの生活は、毎日新しい発見があります。前任地はニューヨークでしたが、東ティモールが初めての途上国勤務だったので、現地に来るまでどんな生活になるのか全く予想もつきませんでした。特に、東ティモールといえば最近独立した若い国で、独立闘争や独立後も紛争が起こっているというイメージしか持っていなかったので、赴任前は正直本当に不安でした。この不安な状況をさらに悪くするのは東ティモールに関する情報の少なさです。たいていのことはインターネットで検索できてしまう時代ですが、東ティモールに関しては、インターネットで検索しても独立闘争や国連ミッションに関する情報等に限られており、現在の現地の様子は全くわかりません。

 

 不安な気持ちのまま東ティモールに赴任しましたが、現地での生活を始めてみると、それまで東ティモールに対して持っていたネガティブなイメージが少しずつ変わってきました。たしかにここはまだまだ貧しい国で、多くの問題がありますが、海はキレイですし、東ティモールの人たちものんびりしていて、ここで過去に紛争があったとは信じ難いほど今は落ち着いています。また、この館員コラムでも過去にご紹介しているように、今東ティモールは国づくりの真っ只中にあり、日々発展していく様子を見ていると将来が非常に楽しみです。私は大使館では広報文化の仕事を担当しているので、ティモールの人たちと交流する機会に恵まれています。今回のコラムでは、これまで私が出会ったティモールの子供たちや学生さんから感じたことを紹介してみようと思います。

 

 

 「東ティモールの小学校」

 

 7月前半には、マウビシという地方(首都ディリから車で約2時間半)の小学校を訪問する機会がありました。絵のワークショップ開催のために訪問したのですが、私にとって初めての現地の学校訪問でした。この小学校は、日本の支援で改修された小学校で、校舎の壁に日本とティモールの国旗が描かれています。

 

 

日本のODAで改修を支援した小学校

 

私たちが到着すると、大勢の子供たちが集まってきて、歌を歌って迎えてくれました。

 今回は、以前日本政府の国費留学生として日本に留学していたティモール人に小学生に対して日本のことについて話してもらい、子供たちにその後日本についての絵を描いてもらうという活動を行う予定だったのですが、活動を始める前に、子供たちにどれくらい日本のことを知っているか聞いてみました。

 

日本についての講義に聴き入る子供たち

 

すると、驚くことに日本について全くと言っていいほど知らないのです。校舎に描かれているせいか、日本の国旗はみんな知っているようでしたが、それ以外については、同じアジアの国で時差がないにもかかわらず、日本がどこにあるかさえ知らないようでした。今は世界中に広まっていると思っていた、日本のアニメやお寿司、着物等についてはこの国ではまだほとんど知られていません。同行してもらった国費留学卒業生の話では、日本の四季についても言及があり、子供たちは雪や桜の写真に興味津々といった感じで見入っていました。熱帯に属するこの国では四季がなく、子供たちにとっては雪や桜は未知のものであったに違いありません。

 

 また、この小学校の中を見学させてもらっていると、ちょうどお昼の時間になりました。子供たちが給食を食べるというので様子を見ていると、大きなどんぶりに山盛りになったごはん(お米と豆が入っていてお赤飯のように見えます)を食べ始めました。

 

給食を食べる子どもたち

 

子供たちはみんなやせているので、その小さな子供たちが山盛りのごはんを食べているのには驚きました。とても大人でも食べきれないような量だったからです。特に家が貧しい子供にとっては、一日一回の学校での給食が主要なエネルギー源となっているのかもしれません。また、東ティモールの学校の給食を実際に見学したのは初めてで、ごはん一品のみでおかずも牛乳もなしという給食を目にして、日本の子供たちは恵まれているなと改めて感じました。絵のワークショップで絵の具やクレヨンも配ったのですが、この小学校の子供たちは絵の具やクレヨンも今まで使ったことがないと言っていました。

 

 

完成した絵を掲げる子どもたち

 

 日本の小学校では当たり前のように支給される、絵の具やクレヨン、栄養バランスの整った給食などはこの国ではまだまだ手に入らないものだということを実感しました。

 

 

 「東ティモールの大学生たち」

 

 首都ディリには唯一の国立大学である、東ティモール国立大学(UNTL)が存在します。先日、UNTLの地域開発学科の学生さん達と交流する機会がありました。みんな勉強熱心で真面目です。大学を卒業したら出身地に戻って(地方出身で家族と離れてディリで勉強している学生さんが多いようです)地元の発展に貢献したいと熱く語っていたのが非常に印象的でした。

 

折り紙を体験したUNTLの学生さんたち

 

 その一方で、大学に行くのは経済的にも大変なことで、ドロップアウトする学生や働きながら大学に通っている学生も多いようです。大学の学費について聞いてみると、1学期(1年2期制)30ドル(約3000円)ということがわかり、また衝撃を受けました。学費の安さに驚くというよりも1年に60ドルという学費を払えない人が多いということがショックでした。一人あたりの年間国内総生産(GDP)が約350ドルのこの国では、子供を大学に行かせるのも大変で、学生さんからは家族の期待を背負って一生懸命頑張っている様子が伝わってきました。

 

 一方で、ディリ大学という私立大学では、以前JICAの研修プログラムで日本に留学していた東ティモール人女性が、日本語の授業を教えているというので、授業の見学に行ってきました。

 

ディリ大学での日本語の授業

 

 私が教室に入ると、50人ほどの大勢の学生がいて、学んだばかりの日本語で話しかけてくれました。まだ日本語のクラスは開講されたばかりなので、ローマ字を使って日本語の挨拶や簡単な表現を教えていました。東ティモールの人たちにとっては、物理的にも心理的にも日本はまだ遠い国ではないかと感じていたので、こんなに多くの大学生が日本語を学んでいることに驚きました。しかも、教材も先生も限られていますが、みんな日本語を学びたいという強い意欲を持っています。また、この授業を教えているティモール人女性は、政府機関に勤めているので、昼休みの空き時間にディリ大学に行って日本語を教えています。彼女の自分が日本で学んだことを東ティモール人にも伝えたいという気持ちと学生さんたちの意欲的な姿勢には、心を打たれるものがありました。

 

 

 「日本への留学という夢」

 

 私は大使館で国費留学生の選考にも関わっており、先日来年度の国費留学生の選考を行いました。私にとって一番印象的だったのは、どの受験者も日本に留学したら日本で多くのことを学んで、留学を終えたら帰国してティモールの人たちに学んだことを伝えながらこの国の発展に貢献したいという強い気持ちを持っていたことです。面接の模範解答のように思われるかもしれませんが、受験者の話しぶりからは嘘偽りのない正直な熱意が伝わってきて、本当に立派だと感じました。日本へ留学できる人の数は非常に限られていますが、このような熱意のある優秀な人たちに今後もっと多くの機会を提供できたらいいなと思います。

 この国費留学生のプログラムは日本の大学院への派遣となるのですが、日本の大学(学部)に留学したいという声も多くあります。実際に先日、この夏に高校を卒業した女の子が日本へ留学したいと大使館を訪ねてきました。バスで約2時間離れている地方からわざわざ大使館まで来てくれました。彼女は今年の4月にJENESYS(21世紀東アジア青少年大交流計画)というプログラムで日本を短期間訪問(東京及び地方各地でホームステイを含む交流事業に参加)したことをきっかけに日本に留学したいと思うようになったそうです。わずか10日ほどの日本滞在だったにもかかわらず、彼女は日本の親切な人々やおいしい食べ物、美しい日本文化等に魅了され、帰国してから学校のクラスメートたちに自分の日本での経験を共有したと言っていました。短期間外国を訪問し、その国が好きになることはあるとしても、そのわずかな経験からその国の大学で勉強する(=約4年は滞在する)と決意し、地方からわざわざ首都の日本国大使館を訪ねてくるとは並大抵のことではありません。彼女の日本に留学したいという強い決意を聞いて、なんとか学部レベルに留学させてあげられる方法がないかと考えているところです。

 

 人物レベルの交流は、すぐには目に見える成果が出ないかもしれません。しかし、外からの情報が限られている東ティモールでは、個人レベルで日本についての理解を深めてもらうことが非常に重要ではないかと思います。また、日本の皆さんにももっと東ティモールのことを知ってもらえるように頑張っていきたいと思います。そして、今回ご紹介したような東ティモールの若い人たちがこの国の発展をリードし、日本がこの国の将来のリーダー育成に少しでも貢献できることを願っています。

 

 

(小出)

 

 

 

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