館員の見た東ティモール

 

南の小さな島での体験、ぐるん

騒乱

 

 私がこちらに勤務してから一番大きな「ぐるんぐるん」は、2006年の騒乱でした。

 

 2006年に起こった騒乱は、私の中では大きく2つに分かれます。まず、東ティモール国軍の一部の人々が待遇の差別を理由に政府に申し入れをし、4月下旬にデモをしたのですが、平和裡に行われていたデモの最終日にディリ市内中心部や東部等で投石や焼討ちが発生し、治安部隊と衝突するなど、死傷者が出る騒ぎとなり市内は騒然としました。何者かがそのデモを乗っ取ったのだと言われていますが、それが1度目の騒乱でした。その騒乱の後、ディリ市内では家財道具を車に詰め込んで地方へ逃げようとする人々がたくさん見かけられました。赴任して1年が経とうとしていた当時、初めてみる光景に、何かが悪い方向へ進んでいると感じざるを得ませんでした。

 

 そうした騒動が起こっている最中、先の東ティモール国軍の一部の人々の申し入れに政府が対応しないことに不満を持った憲兵隊数名が武装したまま国軍を抜け出したとのニュースを聞きました。武装した者が何をしでかすか分からないのに、不思議なことにディリ市内はもとの活気を戻しつつありました。

 

 しかし、5月下旬、2度目のしかも大きな騒乱が発生してしまいました。

 

 まず、ディリ市郊外東部で今度は国軍が襲撃されたとのニュースの後、ディリ市郊外西部でも銃撃戦が発生したとのニュースも入ってきました。ディリ市は、北は海、南は山に面しており、市の東端・西端で銃撃戦が発生したため、大部分の人はディリ市内に足止めされました。ディリ郊外東部での銃撃戦の後、東ティモール政府は海外に助けを申し出ましたが、オーストラリアやマレーシア等から軍が東ティモールに到着するまで約1日の空白の時間が発生しました。私には、その1日の空白がとても長いものに感じられました。

 

 この空白の時間に、東ティモール国軍が東ティモール警察官数名を射殺する事件が発生し、ディリ市内の警察機能は麻痺状態に陥ってしまいました。こうした悪い情報は飛ぶように口伝いに伝わり、ディリ市内は一時パニック状態に陥りました。治安も悪くなり、投石、喧嘩、放火等が発生し、市内各所で銃声が聞こえました。

 

 海外に逃げ道を求める東ティモールの人々は、オーストラリア大使館等に群がり、国内ではオーストラリア軍の警備する空港付近、ディリ港付近や、国連本部前、教会、国軍の駐屯地等各々が安全と考える場所に集まった後そのまま留まり、国内避難民キャンプが出来ました。

 

 すべての商業活動はストップし、スーパー・マーケット、レストラン、ガソリン・スタンドもすべて閉鎖、銀行も全く開く気配がありませんでした。こうした状態に陥って初めて気がつくのが、ディリに残った外国人である自分のおかれた現状です。毎日活動するために、銀行からお金を引き出しそのお金で何かを買って食べるという普段は普通にしていることが、まったくできなくなってしまった現状です。ぐるん。

 

 当時輸入が中心の経済であり、その輸入の大半を担うディリ港が機能しない状態にあって、商業活動がストップした中では、活動するにも限界があります。また、大使館業務中に例えば自分のアパートメントが窃盗に遭いあるいは焼失してしまっているかもしれない等不安に駆られながら仕事と向き合い、危険と隣合わせで過ごした時間は非常に消耗するものでした。

 

 しかし、そうした消耗の中ではっとさせられたことがありました。それは、「この騒乱も99年や74年の騒乱と比べればましな方よ」と言って気丈に対応したというティモールのおばさんの話をティモール人の知り合いに聞いたときです。ぐるんぐるん。

 この地に生まれ育った人たちは、こうした騒乱を何度も経験させられています。戦後生まれの平和な日本に生まれ、東ティモールで06年の騒乱のみを経験し消耗していた私は、自分を恥ずかしく思いました。

 

 騒乱の苦しみと共に生き、それでも諦めない強さをもったティモールのおばさんも、自分の状況も大変であるのに国内避難民支援にボランティアで携わるティモール人の知り合いも、99年に独立を共に願った東ティモール人同士が、お互いの出身地を理由に憎み合うことは、非常に嘆かわしいことであると言っていました。

 

 あの5月の騒乱から、ちょうど3年が過ぎました。

 

 この国の形が今後どのようになるのかは、私にも分かりません。しかし、私としては騒乱の中にあっても失われない一般の東ティモール国民の中に息づく強い気持ちに、この国の国造りの希望を見いだしたいと思うのでした。

 

 

 追記:この度、私は異動発令を受け、東ティモールを離れることとなりました。この国は独立してまだ7年の若い国で、様々な面で途上ではありますが、今後の発展がとても楽しみであり、別の地からこの国を見守り声援を送っていきたいと思います。

 

 

(泉)

 

 

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