2010年1月、JICAからの依頼により、東ティモールに2週間出張することとなった。出発前、私が東ティモールに出張することを聞いた人は皆、「大丈夫なの?」と必ずと言ってよいほど尋ねてきた。正直、新聞報道程度の情報しか持ち合わせいなかった私は、この質問に明確に答えられずにいた。
今回の出張は、東ティモール港湾管理アドバイザーとして、港湾施設の維持管理に関する技術の移転・普及を図ることが目的であった。首都ディリにあるディリ港は、同国の輸出入の95%を担っており、まさに国民生活や経済活動の礎となっている。ディリ港では、日本の無償資金協力により整備された桟橋を使って、毎日毎日生活物資が運び込まれている。また、同国の飛び地であるオエクシ県でも、今後、緊急無償資金協力により桟橋の改修工事が始まろうとしている。
言うまでもないが、我が国の援助で港湾が整備されることで、今後の同国の発展に大きく貢献していくはずである。しかし、港湾施設のような、コンクリートや鉄で作った土木構造物といえども、徐々に劣化が進行していくことは宿命であり、放っておけばいくつかは朽ち果てていくものである。そうならないためには、日々の維持管理(メンテナンス)が重要である。これは、我々の体やテレビや自動車といった耐久消費財でも同様である。我々の健康のためには、健康診断や人間ドック、日々の運動、バランスの取れた食事が重要であり、自動車を長持ちさせるためには、車検や定期点検はさることながら、日頃から自動車を大事に使うことが重要である。土木構造物もまったく同じである。常日頃からのメンテナンスとして、巡回、点検、補修をこまめに続けていくことが、土木構造物を長期間にわたって安全に使い続けるためには必要であり、ひいては同国の着実な発展につながっていくものと考えられる。
今回の出張では、同国の港湾技術者とのディスカッションやOJT、セミナーの開催等を通じて、港湾施設を含む土木構造物の維持管理の重要性を説明した。同国の技術者が、今後、港湾の維持管理に真剣に取り組んでくれて、我が国の援助で整備した港湾をこれからも長期間にわたって使い続けてもらえたら本望である。現在、我が国の国際援助について様々に議論されているが、今後は、今回のプロジェクトのように、単に施設を供与・整備するだけでなく、その後の維持管理体制や技術者の養成までも含めた形で援助が進むことを期待している。施設を作りっぱなしにするのではなく、その後の人と人の付き合いまでも含めた国際協力が望まれる。
独立して間もない同国の国造りに、このような形で、ほんの少しであるが、協力させてもらえて、本当に嬉しく思う。この国を訪れて、いろいろな人に出会い、いろいろな街を歩いていて、本当にすべてが「これから」であると改めて感じた。少々おおげさかもしれないが、国造りとは? 国家とは? 生活とは? 人間とは? と原点に返って考えさせられることが多い2週間であった。ともすると、日々の生活に忙殺されてしまいがちな我が国とは違い、東ティモールでの毎日は、「生きる」という意味を改めて感じさせてくれた。
今回の出張でうまれた人と人の付き合いを今後も大事にして、またいつか東ティモールを訪れて、港湾の維持管理がどの程度浸透しているのか確かめてみたいと思う。2週間という短い滞在であったが、今回の出張を終えて、本文の最初の質問に対してはっきりと答えることができるようになった。「大丈夫です。皆さんも是非一度訪れてみてはいかがでしょう。」
岩波(港湾空港技術研究所)
雨季にしか見られない緑色の山々
お馴染みの黄色いタクシー
タイスを織る女性
オエクシでフェリーに乗り込む人々
港湾整備の遅れから海に浸りながらの乗船
懸命な作業員たち
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