オエクシの魅力(動物編)
アフリカのサファリツアーに参加すると、数日間の滞在でも数多くの野生動物に出会うことがきます。それとは逆に、オエクシの野生動物に出会うには少し長めの滞在が必要となりますが、その価値は十分にあると思います。
<イルカ>
パンテマカサールの町から西へ2時間、インドネシア国境(通過不可)手前、シトラナ(Citrana)の沿岸にはイルカが定住しているようです。このあたりの海岸は岩場が多く、ボートで出かけたのですが、イルカが波乗りにやってきました。パンテマカサールの海岸でも時々イルカを見かけ、毎日のように海に出ていた私は、イルカが自分から数メートルほどのところを通り過ぎるのを数回経験しました。
<シャチ>
忘れません、2007年4月21日、同僚と2人でマハタ(Mahata)の桟橋で泳いでいた時のことです。*マハタは日本の自衛隊が平和維持活動で滞在した場所で、この時もまだプレハブ、テントや発電機、トイレなどが残されていました。
オスのシャチが突然、私たちから約2、30メートルのところでジャンプしながら現れたのです。ブリーチング(breaching)と呼ばれるこのシャチの行動は体の半分以上が空中に飛び出すものです。シャチは3回ブリーチングを繰り返し、そして泳ぎ去って行きました。あわてて岩に上がり見渡すと、沖にはもう1頭若いオスと母親らしきメス、子供2頭が泳いでいるのが見えました。「どうしてシャチだと分かる?」と嫌疑な友人に、カナダの大学の研究チームに参加した時のことを話しました。見間違えるわけがありません。通常、シャチのオスはグループの外側を泳ぎ、船などがいると偵察に近寄ってきます。おそらくこの時もそうだったのだと考えられます。皮肉っぽく友人が言いました、「好奇心で海岸に近付いてみたら、なんとここにも日本人がいるっ、これはやばい、食べられるっ、と思ってあわてて逃げて行ったんだ」と。残念ながら、その後は一度もシャチを見ることはありませんでしたが、予期しない場所で、まったく予想していない野生動物に出会うことは本当に感動的です。
<クジラ>
東ティモールの北側の海岸線をクジラが通り過ぎるのは、だいたい10月~11月です。海に詳しい友人によると、東から西へ回遊していくだけで特に長く滞在しないとのことでした。そう言えば、東から西へ泳いで行く姿しか見たことがありません。私の望遠鏡では十分判別できず、おそらくザトウクジラかマッコウクジラかその辺の種だと思われます。パンテマカサールの海岸近くに一番出没する頻度が高いのは午前6時から8時、午後4時から6時ごろです。フェリー・ナクロマがまだ港付近で停留していると、時々すぐそばまで近寄ってきます。彼らの体長は15mくらいあり、潮吹きも2~3m以上高く上がるので、絵になります。こんな時、フェリーにいるお客さんはラッキーだなぁとうらやましがった私ですが、フェリー上のティモール人も同じように感じていたのでしょうか。
2008年に一度、死んだクジラが浜に打ち上げられました。それはそれは臭いのなんの。写真を撮るのも命がけ、息をとめて近付き、必死で笑顔を作ってポーズです。気温が高いせいかそれとも近くの動物(ワニや犬)が捕食したのか、速いスピードで骨ばかりになりました。そして今度は地元の人が顎の骨や肋骨を少しずつ切っては持ち帰って行きました。何に使うんだろう?そして残った小さな脊椎の骨を大事そうに持ち帰るのはオエクシのマライ。この頃クジラの骨を家の玄関や壁に飾るのが流行でした。
体長は約18m(同僚とともに記念撮影) 骨はとても重く女性1人ではとても動かせません
<ワニ>
さてこのクジラが打ち上げられた場所には、浜辺を挟んで沼がありマングローブが生い茂っています。いかにもワニが生息していそうな場所ですが、「ワニがいる」という地元の人と「ワニはいない」という地元の人とに分かれ、真相はしばらくはっきりしませんでした。ある日、同僚と100m程沖でシュノーケルをしていたところ、水深7mくらいだと思いますが、なんと海底に寝ている(横たわっている)ワニを目撃したのです。体長3m(本当は多分1.5mくらい)。血相を変えて泳ぎ帰ってきた私達に皆は「幻覚だよ~」とからかいました。納得がいかず辺りを散策すると、浜から沼につづく、しっぽと両側の足跡を発見!!
この浜は、クロコダイル・ビーチを命名されました。2007年8月のことです。
クロコダイル・ビーチに戻ってくるワニ
この翌2008年以降は、体長が4mあるとも思える大きなワニがパンテマカサールの海岸近くを行き来するのを頻繁に目撃されるようになりました、といっても年に数回ほど。町の中心オエクシ県担当国務長官の公邸前の浜に上がってきたのも、クロコダイル・ビーチで犬を捕食している姿も確認されましたが、実際に人が襲われたという話は聞きません。友人によると繁殖のために移動するのだそうです。人とワニのすみ分けがこのまま穏和に続きますように。
<ウミガメ>
ダイビングをする人の中には、ウミガメに出会うことを一つの目的にしている人もいるのではないでしょうか。オエクシにしばらく滞在すれば、高い機材やツアー料金は不要、シュノーケルで十分です。
私の個人データによるウミガメスポットはマハタ、SOS邸前ビーチとオエクシ空港沖です。マハタの桟橋から西へ100m程泳いでいくと直径が3mくらいもあるテーブルサンゴがあります。それよりさらに西に20m程行くとサンゴが群生して野原のようになっている場所があります。ここがスポットで、テーブルサンゴから息をひそめて進むと、野原でぼーっとしているウミガメに出会えます。確率は30~50%。この野原を通り過ぎると、サメがよく出没する場所になるので要注意です。
国務長官公邸前は遠浅になっていて、クマノミ家族やウミガメに出逢うにはかなり沖に出る必要があります。公邸に向かってやや左手方向に進み、砂地からサンゴが見え始めたら、そのまま水深が急に深くなる場所まで進みます。この境界辺りにウミガメがやってきます。出逢える確率は20~30%。ここはサメもよく見かけます。体長1.5メートルくらいかな、見た目はリーフシャークかな?泳いでいるうちにサメを見たら、方向転換、静かに泳ぎ去るのみ。
今ではシュノーケル派 SOS邸前ビーチ
<ジュゴン>
サンゴとか岩場じゃなくて、やわらかい砂地のビーチで泳ぎたいという人には空港に近いOXFAMオフィスの前にある、通称OXFAMビーチがお勧めです。ここの砂地には穴ぼこがいっぱいあって、白黒の縞々模様をしてヘビにように細長い体系をした魚が顔を出したり引っ込めたりします。午後の太陽の光が乱反射して届く海底に、ゆらゆら揺れる彼らの姿は本当に「まったり」という表現がぴったり。このOXFAMビーチには他ではあまり見ない水草が点々と芝生のように生い茂っていて、何やらそこを芝刈り機で何重にも刈って行ったような筋ができています。実はここはジュゴンの食事場なのです。ジュゴンはとても恥ずかしがり屋で人が水中でお目見えすることはめったにないと思いますが、オエクシ長期滞在の醍醐味はここにあります。毎日いろいろなスポットで泳いでいると、こうしたシャイなジュゴンと至近距離で泳ぐというチャンスにも恵まれます。食事をしているジュゴンの頭上にそっと近づき、ただただ、じっと観察する、そして泳ぎ始めたら、静かに同じ方向に泳いでいく。のろまのイメージがあるジュゴンですが、やはり慣れない人間に気付いた瞬間の反射神経は抜群で、あっという間に泳ぎ去ってしまいます。泳ぎの達人でもついて行くのは無理でした。9~10月が出没時期のようで、夕方に沖合を泳ぐジュゴンの背中を見ることがしばしばありましたが、実際のところ詳しい行動範囲は分かりません。 この他、ジンベイザメもたまに立ち寄ってくれます。
<ロブスター>
オエクシでは、家族によって食べてはいけない(食べないと決められている)食べ物があります。理由を聞くと「伝統だから」ということですが、それぞれの家族の祖先が魚だったり鶏だったりして、「祖先は食べない」という説も聞きます。中でも多いのが魚や海の生物を食べない人々です。せっかく海に面していて、魚もよく獲れる状況だと思うのに、残念です。逆に、そのおかげで海の資源がまだまだ豊富に残されているのかも知れません。
ですから、ロブスターなどを喜んで食べるのはせいぜいマライくらい。ロブスター自体を獲れる漁師さんも限られているようで、年に幾度ほどしか売りにやってきませんでした。そのおかげでロブスターがここまで大きく成長できるのだと思うと、逆に申し訳なく思います。オエクシでは当初、7kgのロブスターが10ドルで買えましたが、ディリでは2kgもなさそうなものが100ドルで売られているのを見ました。この差はいったい何なのか。
全部で30ドル なぜか国連クリニックに迷い込んでしまったカニ
たしか2月~3月、町の中心部から空港に向かう海岸道路が海からマングローブの沼地に向かうカニ達によって通行止めになることがあります。夜にここを通る車自体がまずないので、問題は起こりませんが、たまに行き過ぎて国連クリニックにまで遠出するものもいました。産卵のためでしょうか。
オエクシ海サファリの必須条件は、長期滞在です。私も若い頃はダイビングをよくしましたが、今ではシュノーケル派です。オエクシにももっと観光客が訪れて町がさらに発展することを望む一方で、この豊かな自然がこのまま末長く姿を変えずに残っていってほしいと願い、こうしてロブスターなどをほおばる私達はちょっと自分勝手だなと感じることもあります。
建物・史跡編につづく
桐山(看護士(国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)))
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