私の見た東ティモール

オエクシの魅力(自然編)

 

 

 東ティモールで仕事をされている方々の中には、かなり多くの人がオエクシと何らかの形で関わったことがあるのではないかと思います。私も2007年から2年間国連ボランティアとしてオエクシに滞在しました。このオエクシを愛してやまない一人として、その魅力について書いてみたいと思います。

 

 オエクシ(Oecusse)はディリから西に約80キロ離れたところに位置し、周りをインドネシア・西ティモールに囲まれた飛び地です。陸地を行くにはあらかじめインドネシアのビザが必要で、またそれぞれ国境の税関で長時間待たされることもしばしばあるせいか、人々はだいたい週2便運航されているフェリー・ナクロマ(Nakroma)に12時間揺られて行き来しています。空路は、国連のヘリコプターかMAFというNGOが運営するセスナで行くことができます。
 オエクシの人口は約6万5千人(2010国勢調査)、人々は主にバイケノ(Baikeno)語という地元の言葉を話します。町に住む多くの人はインドネシア語が話せるのですが、テトゥン語、ポルトガル語、英語を話す人はあまりいません。パンテマカサール(Pante Macassar)という海沿いの町とさらに3つの準県(Sub Districts)に分かれています。山間部のオエシロ(Oesilo)準県はインドネシア国境ボボメト(Bobometo)へつづく道路がそれなりに整備され、山間部の割に比較的便利です。もう一つの山間部パッサベ(Passebe)準県、そして海岸と山間部に跨るニティベ(Nitibe)準県はどちらも道路事情が非常に悪く、雨季には川の氾濫で道路が寸断され、毎年2~3ヶ月は孤立してしまいます。

 

オエクシの海岸、ヘリポート上空から。

 

 地理的にとても不便で、東ティモールの他の地域と比べるとまだまだ発展・開発がかなり遅れているオエクシですが、なぜか人々を異様に惹きつける隠された秘密があると思います。

 

<夕日>

 オエクシではほとんどの浜辺から水平線に沈む夕日を見ることができます。雲がかかり夕日そのものが見えない日でも、太陽光によって空全体が青、白、緑、紺、黄色、オレンジ、ピンク、そして深い紅色など様々に変化していくのを見る時、「ああ、これで今日も無事終わった」とほっとします。皆はそれぞれ帰宅して夕食でしょうか、夕方浜辺に座ってぼーっとしているのは数少ないマライ(外国人)くらいです。ですから、そこは完全なプライベートビーチとなり、ビールやワインなどを楽しみながら夕日を眺める最高の瞬間です。プライベートビーチや夕日のためにわざわざ休暇を取って出かけなければならない人たちのことを思うと、本当に贅沢で申し訳なく感じます。

 

緑の閃光が見える?

 

<Sleeping Beauty>

 およそパンテマカサール町内の浜辺どこからでも見ることができるのですが、乾季の雲が少ない時にはSleeping Beauty(Sleeping Princess)が姿を現します。対岸の島(島々)が重なってとてもスタイルの良い女性が横たわっているように見えることから、おそらくオエクシに滞在した外国人が名付けたのだと思います。同僚には国連警察官が多くいましたので、彼らは国にいる奥さんや恋人のことを思いながら、この美しく魅力的な姿を崇めていました。

 

桟橋から見るSleeping Beautyとフェリー
いったいあの島はなんというのだろう。

 

<月夜>

 浜辺でさらに驚いたことは、水平線近くに沈んでいく満月がぼやけたオレンジ色から茶色になり、とても不気味なほどに大きく見えることです。狼男のようなモンスターよりももっとじめっ~とした幽霊が登場してくるような雰囲気で、ちょっとティモールには似合わないと思っています。赤道に近いという位置的な理由なのか海岸沿いだからなのか、もしかしたら当たり前のことでただ私がこれまでに見たことがないだけのことかもしれませんが。
 今もオエクシでは夜間に数時間電気が通るだけで、2008年には8ヶ月以上電気の供給が完全に途絶えた時期がありました。この時ほど月の光のありがたみを感じたことはありません。夜中に帰宅するたび、暗闇の中で玄関の鍵を開けるのは一苦労だったのですが、だんだん慣れてくるせいか新月や三日月のような暗がりでも鍵穴が探せるようになり、満月のときはあえてろうそくの光ですら邪魔だと感じることもありました。現在もクリストレイ(ディリ東端のキリスト像)などからの散歩帰り、満月の日には自宅まで歩いて帰ることがよくあります。月の光に反射してキラキラ光る波も本当に綺麗です。

 

<泥プール>

 正式な名前は知りませんが、オエシロ準県のボボメトにはインドネシアとの国境にまたがって数ヵ所に点在する、「泥の湧き出すプール」があります。国連職員の間ではMud Poolと呼ばれています。人によってはVolcano「火山」と表現する人もいるので、マグマが流れ湯気が出ている様子を想像してしまいますが、実際は外気の温度とほとんど変わらない程度の泥水がちいさな泡とともに、ぽこぽこっ、ぽこぽこっという感じで湧き出ている場所です。湧き出るポイントは数多くあり、その場所はどんどん変化していくようです。

 

湧き出るスピードも不規則
古くなった小さな泥「火山」

 

<リファウの丘>

 パンテマカサールの町を西に行くとトノ(Tono)川の河口域手前にリファウ(Lifau)という場所があります。この浜辺は1515年にポルトガル人がはじめて漂着した場所だということで記念碑が建っているのですが、その地点からキリスト教の小さなモニュメントが順番に丘の上まで続いています。頂上にはキリスト像があり、イースターなどには地元の人がお参りに集まる場所でもあります。国連警察の何人かはこの丘をトレーニングに利用していて、私も何度か散歩に行きました。ゆっくり歩いて20分~30分ほどでしょうか、一部はとても急な坂道できついのですが、頂上にたどり着いた時の爽快感は最高です。前方に海が一望でき、眼下には美しい緑の田園が広がり、右手にはパンテマカサールの町、左手には夕日、そして背後にはトノ川中流の分岐点が見えます。

 

頂上のキリスト像のモニュメント
眺めは最高。明かりは全くないので夜は要注意。

 

 東ティモールの各地にはそれぞれ素晴らしい場所が数え切れないほどあると思いますが、オエクシの売りはやはり海、浜辺と山々の両方を同時に楽しめる点にあるかもしれません。

 

動物編につづく

 

 

桐山(看護士(国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)))

 

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