医務官からのお知らせ

 

 

~ 東ティモール医療事情(2010年2月25日改訂版) ~

 

1.衛生・医療事情一般

 気候は、山岳地域を除き高温多湿の熱帯雨林気候です。明確な雨期と乾期の区別があり、かつ、ディリを含む北部海岸線においては乾燥の厳しい熱帯気候で、一年を通じて30度台と比較的高温です。雨期および乾期は、それぞれ11~4月、6~9月で、5月と10月は遷移シーズンにあたります。乾季にはほとんどの川に水が流れていませんが、雨期には各地で洪水の被害が報告されます。ディリ市内も排水が悪く、雨が降ったあとにはあちこちに水たまりができてしまいます。
 ディリ市内は上水道が整備されつつありますが、上水道の水も飲料には適していません。多くの地方では清潔な水を入手することが困難です。
 ディリ市内は水洗トイレもありますが、医療機関であっても清潔なトイレを見つけることは非常に困難です。また生活排水は直接海に流れ込んでおり、沿岸は海水浴には不適です。政府は全体掃除limpeza jeralと称し住民に定期的に清掃することを呼びかけていますが、効果はあまりなくあちこちにゴミが散乱しています。
 現地の医療水準は、施設の衛生面・医療設備・医師の能力とも邦人が安心して受診できるレベルにはありません。治療はシンガポール、インドネシア(バリ)、オーストラリア(ダーウィン)等の国外で行う必要があります。国外への移送費・治療費共に高額(チャーター機使用の場合は2000万円程度)となる可能性が高いため、渡航にあたっては海外旅行傷害保険に加入することをお勧めいたします
 東ティモールはマラリア・デング熱の流行地であり、年間を通じて罹患の危険性が伴うため、防蚊対策が必要です。また、様々な経口感染症があり、飲み物や食事には充分注意が必要です(医務官からのお知らせ「在留邦人のための感染症対策の手引き」をご覧下さい)。
 東ティモールへの子どもの同伴は、当地医療事情のほか教育事情等を考慮の上ご検討ください。

 

 

2.かかり易い病気・怪我

 (1)交通事故

 ディリ市内では自動車、オートバイの交通量が増えており、交通ルールやマナーを守らない運転手が多いため頻繁に交通事故が発生しています。外傷に対応出来る病院がありませんので、事故に遭わないように充分注意して下さい。事故に遭って怪我をした場合には、軽傷であればディリ国立病院で応急処置が可能な場合がありますが、重症の際には医療設備が比較的整った国外(インドネシアのバリ島、オーストラリアのダーウィン等)に緊急移送する必要があります。治療・移送には高額な費用がかかりますので、必ず海外旅行保険に加入しましょう。

 

 (2)感染性腸炎・旅行者下痢症

 細菌やウイルス等が原因となって下痢を起こす疾患の総称で、旅行者の多くが経験します。感染症ではなくても、硬度など普段飲んでいる水との水質の違いによって下痢を起こす場合もあります。原因としては、レストラン等の料理(火が充分に通っていないもの)や生野菜・カットフルーツ・氷等が多いようですが、不潔な食器が原因となることもあります。
 なお、発熱とともに嘔吐・下痢・発疹がみられる腸チフスや、激しい水様の下痢をきたすコレラも東ティモールでは多く発生しています。

 

 (3)デング熱

 デング熱は蚊が媒介するウイルス感染症です。日中活動するネッタイシマカによって伝搬します。発病時は38℃以上の高熱が続き、激しい頭痛、関節痛、悪寒の症状が現れることが多いですが、典型的な症状を伴わない場合もあります。蚊が大量に発生する雨期(3月頃)に患者数のピークがありますが、一年中感染する危険性があります。重症の場合は出血熱やショックを引き起こすことがあります。デング熱には治療薬がないため、蚊に刺されないように充分な防蚊対策を行うことが重要です。罹患した場合は、水分補給や安静などの一般的な対症療法を行いますが、鼻出血など出血傾向が出現した場合、状況によって国外の医療機関に移送する必要があります。

 

 (4)マラリア

 マラリアも蚊が媒介する感染症です。夕刻から明け方に活動するハマダラカがマラリア原虫を媒介します。発症すると38℃以上の高熱が3日以上続き、全身倦怠感、激しい頭痛、関節痛、悪寒などの症状が現れます。東ティモールではマラリアの殆どが熱帯熱マラリアで、治療が遅れると命に関わります(治療をしなければ確実に死亡します)。
 マラリアには予防薬がありますが、現在東ティモールでは予防薬の内服は推奨されておりません。
 なお、地方都市では高熱が出ると直ぐにマラリアに感染したと決めつけ、民間療法や出所が不明あるいは有効期限が過ぎたマラリア薬を飲ませる場合があります。マラリアが疑われる場合は、必ず国立病院や地域の保健センターを受診し診断と治療を受けるようにしてください。
 ディリ市内には医師が常駐してマラリア検査と処方をする薬局もあります。マラリアの診断ができる検査設備がない地方で活動する場合はスタンバイ治療(診断がつく前に治療すること)を考慮する必要がありますが、その際は地方に出かける前に必ず医師にご相談ください。
 マラリアは感染後10日~数ヶ月後に症状がでる場合もあります。日本へ帰国してから症状が出ることもありますので、帰国後に発熱等の症状が出現し医療機関を受診する際にはマラリア感染地域に渡航・滞在していたことを医師に伝えてください。

 

 (5)結核

  東ティモールは世界でも有数の結核患者発生地域です。日本からの渡航者が普段の生活で感染することは希ですが、結核に感染している人との濃厚な接触(寝食を共にする、同じ部屋に長期間滞在する等)は避ける必要があります。毎年の定期健康診断(X線検査)を実施することをお勧めします。また、咳が3週間以上続く場合は医師の診察を受けて下さい。

 

 (6)破傷風

 土壌の常在菌である破傷風菌が傷口から進入し、神経毒素を産生することによって発症する中毒性感染症です。かすり傷程度の小さな傷からも感染することがあるため、裸足で歩かないこと、また、渡航前にあらかじめワクチンを接種しておくことをお勧めします。

 

3.健康上心掛けること

 (1)食べ物・飲み物

  井戸水や川の水・湧き水など(いわゆる生水)は、細菌性腸炎、A型肝炎、赤痢、腸チフス、コレラ等の原因となるので、必ず煮沸させた上で使用してください。また、生野菜は避け温野菜を食することを心掛けて下さい。外食の場合にも調理方法がわからないときは注意が必要です。レストランでの飲み物のグラスや氷も、信用のおける店を除いては使用を避けた方がよいでしょう。飲料水はミネラルウォーターを利用してください。

 

 (2)蚊対策

  マラリアやデング熱は蚊が媒介しますので、防蚊対策は重要です。露出した肌への昆虫忌避剤(虫除けスプレー等)、蚊取り線香や殺虫剤の使用の他、就寝時には網戸や扉をしっかり閉め、更には蚊帳を用いるなど、蚊に刺されないよう注意をすることです。外出時には極力肌をさらさないよう心掛けたほうが安心です。また、水場には蚊が卵を産み付けるため、こまめに水を流し、蚊や卵を駆除するよう心掛けましょう。

 

 (3)直射日光・脱水対策

  日中の日差しは強く、外出時の日差し対策に帽子・サングラスが有用です。短時間の直射日光でもかなり日焼けし、火傷のような状態になることも多いので、日焼け止めを塗ることもお勧めします。また、野外でスポーツ等をする場合には、汗等で体から大量の水分が失われ脱水症や熱中症になり易いので、喉が渇く前に水分(スポーツドリンク等)および塩分を充分に補給して下さい。

 

 (4)暑さと疲れ

 炎天下の野外とエアコンの効いた屋内との移動は予想以上に疲労が蓄積します。また、通年暑いため夜間の睡眠が浅くなりがちですので、体力の消耗に注意して下さい。短期で旅行される場合でも余裕を持った日程を組み、また、長期で滞在される場合は定期的に休暇を取り、精神的にもリフレッシュするようにして下さい。

 

 (5)レクリエーション(水泳、スキューバダイビング等)

河川や沿岸での水泳は、衛生状態と寄生虫感染の危険性からお勧めできません。スキューバダイビングでの事故にも注意が必要です。人工呼吸器はディリ国立病院に1台しかありませんし搬送体制も十分ではありません。また当地には潜水病の治療を行う高圧酸素室はなく潜水病は航空機での搬送はできません。スキューバダイビングはこれらのことを十分考慮して行って下さい。

 

4.予防接種

 (1)赴任者に必要な予防接種(成人、小児)

東ティモールではワクチンを含む医薬品の入手が困難なため、渡航前に出来るだけ予防接種を受けることをお勧めします。渡航にあたっては、成人は、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、コレラ、破傷風、日本脳炎、腸チフス等、小児は、BCG、三種混合、ポリオ、日本脳炎等の予防接種を受けることをお勧めします。

 

5.病気になった場合(医療機関)

 東ティモールには、在留邦人や邦人旅行者が安心して利用できる水準にある医療機関はありません。ここに掲載されている医療機関は、あくまでも参考資料と考えて下さい。国外での治療の可能性を考え、緊急移送をカバーする海外旅行傷害保険への加入をお勧めいたします。
 歯科に関しても、齲歯の治療や歯の詰め物等の処置ができる医療機関はありません。

 

◎ディリ市

(1)Hospital Nacional Guido Valadares(ディリ国立病院)

所在地:Bidau Toko-baru, Dili
電話:331-1044(救急)
概要:

 東ティモール国立の総合病院です。現在は各国からの医療チームの協力により運営されています。24時間対応可能となっていますが、夜間の検査は出来ません。
 医療検査設備は血液検査、レントゲン、心電図、超音波検査、CTがあります。手術室、分娩室もありますがあまり衛生的ではありません。病棟内の冷房設備も限られており、トイレも不潔です。キューバ人医師が多く、中国、オーストラリアからの医療チームが支援していますが、英語を話せるスタッフは限られています。
 マラリアの診断・治療は可能です。地方で発症したマラリア、デング熱の重症例の多くはこの病院に搬送されます。
 診察料は、現地人は無料ですが、外国人は診察内容に応じて料金を徴収されます。また、受診に際しては緊急の場合以外は市内クリニック等からの紹介状が必要です。

 

(2)Bairo Pite Clinic(バイロ・ピテ クリニック)

所在地:Bairo Pite
電話:332-4118
概要:

 アメリカ人医師Daniel Murphy氏が1999年に開設し、NGOの支援で運営している診療所です。医療器材や医薬品は国連やユニセフ、各種団体からの寄付等で賄っているので、基本的に診察料は無料です。内科、小児科、産婦人科に対応しています。結核病棟があります。血液検査は可能ですが、レントゲン検査の設備はないので、レントゲン検査はディリ国立病院に委託しています。検査技師が常駐しており、結核やマラリアの診断・治療も可能です。オーストラリアや日本から医療ボランティアが来て診療の手伝いをしていることもあります。夜間・休日の対応はできません。

 

(3)Australian Embassy Clinic

所在地:Avenida dos Martires da Patria, Dili
電話:331-1555
概要:

 オーストラリア大使館医務官が東ティモール在住の外国人向けに有料で診療を行っています。初診料は$100程度です(料金変更の可能性もあるので、受診の際は確認して下さい)。簡単な検査と薬の処方を行っています。夜間・休日の対応はできません。

 

6.現地語について

 東ティモールの公用語はテトゥン語とポルトガル語で、実用語としてインドネシア語と英語を使用するとされています。英語は外国人を対象とした商店等では比較的通じますが、殆どの国民はインドネシア語、テトゥン語のみを理解します。ポルトガル語を話すことができるのは高齢者に限られているようです。またその他ケマク語、ファタルク語、マカサエ語など10以上の地方語が使用されており、地方の村落ではテトゥン語が通じないことも多いようです。
 医療機関を受診する際に必要なテトゥン語会話例を、医務官からのお知らせ「テトゥン語きまり文句・診察室編」にまとめましたのでご参照ください。

 

(塩川)

 

(c) Embassy of Japan in Timor-Leste  Avenida de Portugal, Pantai Kelapa, Dili, Timor-Leste (P.O. Box 175) Tel: +670-3323131 Fax: +670-3323130