館員の見た東ティモール

 

対空戦闘用~意

 

 

 

 1.はじめに
 東ティモール大使館ホームページをご覧の皆様、連絡調整要員の橋村です。
 連絡調整要員という役割は、陸上自衛隊から派遣されているPKO要員が国連のミッションに専念できるよう、大使館から様々なサポートをするのが仕事です。前任者は海外経験豊富な陸上自衛官でしたが、私は海上自衛官。陸自に比べれば海自はPKOミッションにはやや縁遠く、私は全くの未経験で「PKOって何?」から勉強しながら何とか仕事をさせてもらってます。そんな海外経験が浅い者ならではの初歩的な悩みを海上自衛隊っぽく紹介しようと思います。

 

 2.対空戦闘!
 連絡調整要員が宿泊しているホテルで毎日のように繰り広げられる「対空戦闘」。

 それは海上自衛隊ではASMD(Anti Ship Missile Defense)とも呼ばれる、水上艦艇が敵ミサイルや航空機に対処する戦闘のことだ。そして毎夜私が対処しているのはもちろん本物のミサイルではなく、こいつらだ。

 

「マラリア・ミサイル」でないことを祈る。 これは実際の私の腕。吸ってる!


 そう、「蚊」だ。被弾すると(刺されると)痒いだけでなくマラリアやデング熱への感染の危険性もある恐るべき脅威目標だ。私が知っている日本人の中にも過去にこれを被弾してデング熱に罹患した者がいる。日本で帰りを待つ愛する妻子のため、こんなところで志半ばに倒れるわけにはいかない。断固、対処するぞ!!

 というわけで、蚊の退治になぞらえて海上自衛隊の防空戦の一部を紹介しよう。はじめに、この脅威目標に対処する我が艦の防空兵器達について。まずは艦の花形、主砲だ。

 

これが敵ミサイル対処の主役。 本物の主砲「76ミリ速射砲」

 

 

 何語で何と書いてあるのだろう?取り扱い上の注意どころか製品名すら読めない。まあいい、色からしてとにかく強力そうだ。試し撃ちをしてみたところ、缶の外観どおりの毒々しい煙を放出。吸い込むと具合が悪くなるくらい人間には効く。よし、これならきっと蚊にも効くだろう。

 次に、敵に接近されすぎたらどうする?自分の顔にとまった蚊に直接あの主砲を発射することはマラリアどころか命に関わるぞ?そんな時はこれだ。防空戦の最後の砦、近接対空兵器である高性能20ミリ機関砲、通称CIWS(Close in Weapon System)だ。

 

自慢のCIWS(高性能?ハエ叩き)。 実際のCIWS発射シーン。


 これならたとえ自分の顔面を叩いてもちょっと痛いくらいで済む。

 念には念を入れて防空支援兵器も用意。敵のレーダーやミサイルシーカー波(ホーミングミサイルが目標を探す電波)を混乱させる電子戦兵器、チャフだ。

 

我が家のチャフ。レトロなデザインがいい。 護衛艦のチャフ発射シーン。

 

 あまり近くにいるとちょっと煙いが、この近くにいれば蚊も易々とは接近できないであろう。さあ、合戦準備は万端だ(戦国時代ではない。海上自衛隊の艦艇の戦闘準備のこと)。どこからでもかかってこい!!

 「ぷ~~~~~~~ん」

 おっ!早速来たな!ES探知だ!(敵機が発する電波を探知すること。この場合は蚊の飛翔音を聞いたこと)この音は蚊に違いない。「対空戦闘用~意!」(カ~ンカ~ンカ~ンカ~ンカ~ンと頭の中でアラームが鳴り響く。艦なら全乗組員を戦闘配置に付けるために、艦内にこの音が鳴り響く)

 ハエ叩きを手に取り、バイゴン?を構え、蚊取り線香をたく。よし、「対空戦闘用意良し」だ。敵はどこだ?

 おっ!見つけた!やはり蚊だ。「対空戦闘、攻撃始め」!(海上自衛隊の艦艇では、艦長のこの命令によって目標に対する攻撃が許可されるのだ!)とっさに主砲発砲!例の毒々しい煙が「シュ~~~~~」と撒かれる。

 

主砲発射! 実際の主砲発射シーン。

 

 やったか!?いや、敵は落ちない。びびって射程外で撃ってしまったようだ。しかも見失った。オロオロと探しまわる。この時点でチャフ(蚊取り線香)の意義は消滅。なんともマヌケなASMDだ。あっ!いた!大胆にも壁に張り付いて休んでいるではないか。これなら私でもきっと命中させられる。今度はGUN INRANGE(主砲射程内)を確認。再度主砲発砲!「シュ~~~~」敵はポトリと床に落ちた!やった!第1目標撃墜だ。他に敵はいないか?またウロウロと探しまわる。

 いた!第2目標発見!・・・以降、やたらと主砲を発砲して蚊を追いかけ回すグダグダなASMDが続いてやっともう一匹撃墜。他にはいないか?いない。やった!グランドスラムだ!(満塁ホームランではない。敵機を全機撃墜すること)これで一安心。「対空戦闘用具納め」(乗組員を戦闘配置から元の配置に戻す号令)でASMD終了。やれやれ・・・と思ったつかの間、すぐ背後で「ぷ~~~~~ん」という羽音が。ハッと振り返ると私の首筋から悠然と飛び去っていく敵機、いや、蚊。やられたぁっ!今日も蚊に不意を突かれる哀れな人間様。ああ情けない・・・

 

私が被弾したところ。

 

 こうしてASMDは毎夜敗戦に終わっている。刺されずに夜を明かした試しはほとんどない。虫除けを全身に塗りたくっても朝を迎えるとどこかしら刺されている。日本の虫除けは相性が悪いのだろうか?このまま被弾を続けてはいつかマラリアやデング熱になってしまうのではないかと心配だ。何とか新しい防空戦法を開発しなくては・・・

 と言うか、誰か教えてください!(泣)

 

(橋村)

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